第1章 監督生
ユウにとって、それは何もかもが突然の出来事だった。
物音がしたからもう朝かと重い目を開けたら、たくさんの棺が浮いている部屋だった。
そして、今。
目の前に在るのは宙に浮いた狸…。
「目の前のオレ様を無視するとはいい度胸なんだゾ!このグリム様に目を付けられたのが運の尽き!」
しかも、その狸は喋ったのだ!
自ら「グリム」と名乗った狸は、さらに芸達者で炎を吐けるときた。
それでもって。
何故か、その狸に火を吹き掛けられながら追いかけられてしまっている。
「夢とはいえど丸焼きなんて勘弁して欲しい!」
とりあえずユウは走った。
ここがどこなのか。走りながら辺りを窺うが記憶にはない場所だ。
「ここは一体どこなんだ?」
走り疲れて少し休憩したところで、ついに狸に追いつかれてしまったのだ。
「オレ様の鼻から逃げられると思ったか!ニンゲンめ!さあ、丸焼きにされたくなかったらその服をーーー」
「服?!」
目的はどうやらユウが着ている服のようだ。
ーーー身に纏った覚えのない学生服のようなそれに注目した、その時だった。
ヒュンッ、パシッ!
「ふぎゃっ!?痛ぇゾ!なんだぁこの紐!」
何かが音を立てて、グリムを弾いた。
「紐ではありません。愛の鞭です!」
そう言って現れたのは、目元を仮面で覆った男性だった。
その男性は鞭で叩き、捕獲したグリムではなく、ユウの方を見て口を開いた。
「ああ、やっと見つけました。君、今年の新入生ですね?ダメじゃありませんか。勝手に扉から出るなんて!それに、まだ手懐けられていない使い魔の同伴は校則違反ですよ。」
「離せ~!オレ様はこんなヤツの使い魔じゃねぇんだゾ!」
「はいはい、反抗的な使い魔はみんなそう言うんです。少し静かにしていましょうね。」
「ふがふが!」
仮面の男性はグリムの口を塞いで、視線をユウに戻した。
「まったく。勝手に扉を開けて出てきてしまった新入生など前代未聞です!はぁ……どれだけせっかちさんなんですか。さあさあ、とっくに入学式は始まっていますよ。鏡の間へ行きましょう。」
「……扉?……新入生?」
ユウは漸く話が出来て安堵しつつも、まだ解決していないこの状況を把握に努めることにしたのだった。