第3章 失敗は成功のもと
「…………なんでこうなった」
確か夕食の準備、して。
教授に出した失敗した料理たち。
それを見事に平らげたあと。
何故か今、あたしも教授もベッドの中。
全身の気だるさと。
腰の重さに痛み。
「どこが間違った?」
うーん、とひとり、うつ伏せのまま頭を抱えていれば。
「どこも間違えてなどいませんよ?」
横から逞しい腕が、巻きついてあたしを引き寄せた。
「時雨が料理をしたのは、何故です?」
「え?」
「なんで急に思い立ちました?今まで興味なかったでしょう?」
「…教授、喜ぶかなぁって。結局失敗したけど」
「なら、失敗はしてません」
首に絡んだ腕はそのままに。
教授を振り返る。
「すごく嬉しかったです」
「え?」
「料理の味なんて人それぞれ、主観にすぎません。食べた私が美味しいと満足してるんだから、それでいいとおもいませんか?」
美味、しい?
「あれがっ?あんなのが!?教授おかしいんじゃない?」
「ええ美味しかったですよ。時雨も含めて。大変満足です。満足すぎるほど」
「…………っ」
「私のためになれない料理して、傷作って」
…………絆創膏、バレてた。
「出会った頃の時雨からは想像出来ないくらいです。誰かのために何かをする行為は、とても素晴らしいことだと思いますよ。それが自分のためならなおさら。かわいくてかわいくて、嬉しすぎて。暴走しちゃうくらいには理性飛びました」
「…………わかった。もうしない」
怖すぎる。
この人絶対、おかしい。
今すっっごくいいコト言ってた気がするのに、背筋がヒヤっとするのはなんでだろう。
血の気が引くのは、どうしてですか、教授。
「どうしてです?失敗は成功のもと、ってことわざ、あるのに」
「…………ごめんなさい、もう時雨、何もしない」
絆創膏だらけの指先を捉えて。
口に咥えながら上目遣いで教授があたしを見た。
「そうですね。とりあえず私のいないところで怪我するのは感心しませんから」
…………。
納得。
結局のところ、本心はこっちなのだと痛感した瞬間。
一気に体の疲労が押し寄せてきた。
【完】