第3章 失敗は成功のもと
グーにした拳でどんどんと叩きまくる時雨もすごくかわいくて一瞬見惚れた、けど。
いやいや今はふざけてる場合じゃないな、これ。
「時雨ちょっとストップ。なんか勘違いしてませんか」
少しだけ力を入れて、ポカポカ叩く時雨の手首を捕まえると。
涙でいっぱいの時雨の顔がまっすぐに見下ろしてきて。
…………反則だ。こんなの。
かわいすぎる。
はぁー、とため息と一緒に時雨の腰を引き寄せた。
「な、何…………?」
「あんなかわいいことされて、なんで怒らなきゃいけないんですか。嬉しすぎて味なんてさっぱりわかりませんでした。」
「え、え、なん…………?」
所々に見える指先の絆創膏。
洋服に飛び散った小さなシミ。
こっからでも隠しきれずにばっちり見えてる鍋やらボールやら、洗い物の山。
全部、俺のため?
「お、怒ってたんじゃ、ないの?」
「だから、なんで」
「だ、だって怒ってるから、こんな…、嫌がらせ」
「嫌がらせ?」
…………これが?
はぁー。
もう一度、ため息。
「え、え、なんで」
「…………怒りますよ」
「えぇ?」
「嫌がらせする気なら、もっとネチネチネチネチと時雨をいじめていじめ倒して、ドロドロになっても焦らしまくって、泣いて叫ぶ時雨の姿を目にしっかりと焼き付けてから、イかせまくります」
「…………」
なんですかそのドン引きな顔は。
失礼な。
「ご希望でしたら今からでも…」
「いや!!大丈夫、大丈夫です、ほんと」
引き気味の体をぐい、と引き寄せて。
指先を背中に這わせれば。
ヒュ、と喉を鳴らして背筋がピンと伸びる。
びくん、と反らし晒された喉元へと吸い付いて、啄むように肌を甘噛みした。
「かわいいから、でしょう?」
「……っ、じゅ、くすぐっ、た…………っ」
ぎゅう、って。
捕まれ引っ張られた後ろ髪がピリ、と痛む。
だけど痛みさえも、今は熱く痺れが生まれる。