第2章 過ち
「痛い……乱発は無理か」
水に浸かっている部分がビリビリと痛む。
塩水はやはり相性が悪い。
術者にまで影響が出る。
[よくも妹を……!オマエは絶対殺してやる!]
「なんで無傷なの!?」
[黙れ、オンナ!]
「ッ……」
声質の違う、恐らく主力の女が牙を剥き出しにする。
妹の方は丸焦げになり、身体が消えていく。
上手く祓えたようだ。
セイレーンは鱗を飛ばし、私の肩を貫通する。
なんて強度、なんて速さ。
ドクドクと勢い良く血が溢れ、海を汚していく。
そう何発も食らえないな。
[ニンゲンは弱い、水中では息すらも出来ん。下等種族よ]
「ぐっ……帯電(チャージ)!」
セイレーンの牙が私の右肩に刺さる。
噛み付かれたところから呪詛が回っていく感覚がする。
早めに終わらせなければ私がキャパオーバーになる。
[殺すには惜しいな、オンナ]
「ぐっ……はっ!」
[水中に居なければ当たらん。オマエは弱い]
大きな跳躍。
水中から飛び上がり、私のすぐ目の前まで来ていた。
早い。
冷たい水は私の体温を奪っていき、身体が思うように動かない。
詰みだ。
[お主の望みはなんじゃ]
重なった唇。
内側から何かを吸い取られるような感覚がする。
まずいな。
右腕は呪詛が回り全く動かない。
「こんな弱い私が悟と同じ特級なんて、笑っちゃうよね」
呪術師の階級の1番上が特級。
それ以上の位はなく、全て特級で表記される。
なんて烏滸がましい。
「七海」
「はい!どうかしましたか?」
「私の側から離れないで」
「辻咲さん?」
陸に上がり、ジャケット、ネクタイと動きを制限しているものを脱ぎ捨てる。
ボタンを緩め、最大限動きやすい格好になると傍に来た七海の腕を掴み、引き寄せた。
「確証はないけど多分何らかの呪物を保有してる。
一気に終わらせる。
私に触れていれば領域の影響は受けないから、私から離れないで」
「はい」
「……あと、私も制約を交わされた。多分すぐに何かを奪われる」
「え?」
「領域展開……雷鳴砂漠」
[ぐあぁぁッ]
私の領域展開は、領域内すべてが雷を纏っている。
触れたら感電、即ゲームオーバーだ。
脚をついても、指先で触れても、感電する。
物凄く呪力は消費するけど、展開してしまえばかなり有利になる。