第30章 いつだって突然、恋に落ちるのは(後家さに)
気になって幹の根元まで様子を見に行くと、赤髪の人は根元を枕したように寝転がった状態でスヤスヤと寝息をたてていて
間近で見るとすごく綺麗な顔……
ブレザーに校章が付いてるから一緒の学校かな?
寝ている彼の胸ポケットがブルブルと振動すると目を覚まして、慌てた様子でスマートフォンを取り出して叫んだ。
「はぁ??えっ!?
やってしまった……おつうから連絡来てる
待ち合わせ場所は間違えてる…」
『あの……』
「ごめん!!急いでるから」
そう言うと彼は立ち上がり早々に立ち去ってしまった。
身体の桜の花びらを纏わせていたが彼が動いた事に行き場をなくした花びらが、あちらこちら散りじりなって行く
その光景が木々から舞い散る桜の花びらよりも綺麗だと思ってしまう
目に焼き付いて頭から離れなかった。
私が産まれて初めて恋に落ちたと自覚するのに時間は掛からなかった。
入学式が始まって新入生代表の挨拶で一人の生徒が教師達の座っている席の中から立ち上がり壇上に向かって行く姿は、あの桜の木の下で立ち去った紛れもない彼なのだ。
心の中では驚きを隠せなかったが入学式の進行を妨げる訳にいかず、落ち着いたフリだけに徹していた。
「新入生代表、後家兼光」
知りたかった名前が分かったのが嬉しい反面、挨拶が終わり壇上から降りて席に戻る姿を、ただ目を離す事が惜しくて身体を微動だにせず視線で彼の姿をずっと追いかけていた。
入学式が終わり各自の教室に戻っても彼の姿が頭の中から離れなくて、ボーッとしてると入学式前たまたま隣の席に座って仲良くなったクラスメイトであり初めて出来た友人の南雲朱里(あかり)に声を掛けられて我にかえった。
「香澄ちゃんHR終わったよ!って聞いてるの??」
『あっ、ゴメンね
ちょっと考え事してて』
「えっ??入学式だけだったのに何で??」
『うーん…』
朱里の言葉にどう返していいものか悩みながら辺りを見渡して、後家兼光の姿を探してみるがクラスは違うみたいだ…。