第28章 ふたつの恋のシグナル(宗さにメイン)後編・その2※R18裏
香澄の不安そうな表情は消えて笑顔が戻っていて、話が終わると一安心した。
もう少しだけ美術室に残りたいと言った香澄を残して、須美佳は美術室を一足先に出る。
その須美佳の行き先は空き教室に向かっていて、中には薬研の姿が一人で待っていた。
「如月先輩…大丈夫だった??」
「……大丈夫っては言ってたけど…心配です」
「俺…ちょっと宗三に文句言う…」
そう言って薬研はスマートフォンを取り出すと電話を耳元に当てると、目当ての宗三の声ではなく無機質な声で"この電話は現在電波の入らない状況か、電源が入っていないため掛かりません"とアナウンスされて…。
「須美佳先輩、ダメっぽい…お小夜も学校に来てないしな…」
何も解決策も見付からないまま、
そう言ってから1月過ぎて2月になり、
2月もあっと言う間に過ぎて行って…。
そして3月になり、卒業式の日を迎える事になった。
***
3月:卒業式の当日
三年間通った学舎の卒業…
楽しかった事、悔しかった事、辛かった事、悲しかった事…。
様々な想いが交ざるだろう
でも楽しかった思い出の方が記憶に残る。
そんな色んな想いを晴れ晴れとした気持ちになるが卒業というものなんだろう…
でも香澄の気持ちは、ここに在らず…
卒業式が終わり、体育館から生徒が出てくると
友人や先生との写真を撮ったり、
涙や笑顔が出てる中で、その輪に入る事が出来ずに居た香澄は、その場に居ることが耐えれず一人である場所に向かっていた。
美術室の鍵は掛けられて居ない。
冬休みが終わって始業式のあとに一度訪れてから来るのを止めていた。
……ここに来てしまうと、思い出してしまうから
何度も何度も嫌な顔をされても、振り向いて欲しくて…
通っていた美術室に居る筈のない影を追いかけてしまう。
現実になってしまうから"宗三が居ないという事"が香澄にとっては受け入れられない。
クリスマスの日から会えないまま
…好きだよ、先生
なんで会えないまま卒業なの??
会いたいよ…先生…
ガランとした美術室で香澄は一人涙を溢しながら、立ち尽くしていると…。
閉まっていた扉がガラガラと開いて、涙目のまま振り返れない。
誰が来たのか分からないのだから…