第26章 ミラー越しの君に恋をする(燭さに)
「これで誰も来ませんので…落ち着いてからで大丈夫ですよ」
『ありがとうございます…』
二人掛けのソファーに並んで座り…ゆっくりと口に飲み物を運び…少し落ち着いたのか、ふぅーと息を吐くと…ポツリポツリと呟くように経緯を話していく…。
『……私の婚約者なんですけど…たまたま一流企業の社長のお嬢さんに気に入られて…』
「……無理やり別れさせられたの??」
『……彼から"別れて欲しい、結婚出来ない"って言われたんです』
「えっ……??君が居るのに…?」
『……彼…やりたい事業があったんです…私も応援したかったんですけど…金銭的な事は全く駄目で…彼に夢を諦めて欲しくなくて…だから彼に必要だったのは私じゃなくて…ご令嬢だったんです…でも必要とされたかったな…』少し震える言葉と…顔は見えないが…その瞳には涙が溢れてるのが想像できた…。
そこに光り輝いていた左手の指輪もしていなかった…。
「……君を必要してる人は彼以外に居るよ」
『……そんなの嘘だ…、だって両親も居ない…お金もない…そんな私を誰が必要としてくれるの…??』
「目の前に居る僕だ…
このヘアーアクセサリー覚えてない…??」いつも肌身離さず持っていた…預かってたヘアーアクセサリーを見せる…。
『へっ…これって……うそ!?……えっ!!あの美容室のみっちゃん??』
「香澄お姉さん、そうだよ…僕が伊達光忠…こうした方が分かりやすいかな?」そう言って伊達眼鏡を外し、髪の毛を手櫛で整えて、昔みたいに…眼帯を付けてたように片目を手で隠してみせた…。
『背も小さくて…こんなに大きくなかったし…分かんなかったよ…』
「突然の事で混乱させてごめんね?でも聞いて欲しい…
震災の時と…さっき美容室に来た時と同じ表情してたよ…
泣きたそうにしてるのに泣かずに我慢してさ…
前は僕が子供だから支えになれないって思ったけど…でも今は大人になった僕が君を支える…いっぱい泣いていいよ…」
その言葉を聞いて僕の顔を見上げてくれた君の瞳からは大粒の涙が溢れてて…ソファーに預けてた彼女の身体を自分の胸板に引き寄せて抱き締めた…。