第26章 ミラー越しの君に恋をする(燭さに)
「新人の僕で良ければ、出来ますよ」
『本当ですか…??助かります』
「御名前をお聞きしても…」そう聞くのが普通な事は分かってる…君は僕に気付いていないから、"聞かなくても…分かってるのにな…"と僕の心の声はそう叫んでいた…。
『如月香澄です』
「如月様ですね…日にちのご希望はありますか…?」
『少し先なんですが…6月の私達の挙式の時に…』
「……畏まりました、ヘアーアレンジについては髪のカウンセリングもありますので、また後日来店をお願いします
担当させて頂きます"橘"と言います…」
『橘さんですね、よろしくお願いします…楽しみにしていますね』
そう言って握手を求められると…差し出された左手に小さなダイヤモンドが埋め込まれた指輪が輝いていた…。
慌てて自分の右手を差し出した…上手く笑えてるか分からない…精一杯だった…。
そんな僕の想いを知らず…出会った時と変わらない笑顔で…でもあと時とは少し違う…
照れくさそうに笑顔を浮かべる君を…別の誰かの為に見せるその表情を…僕は見たくなかったんだ…。
その日の夜、僕は"とあるBAR"で呑みまくった…やけ酒しか出来なかった…。
「なんで僕の事を覚えてないんだよぉおおぉー……長谷部くんなんでかな…??」
「俺の店で騒ぐな!!営業妨害するなら出ていけ!!!」
彼は長谷部くんは中学になった時に唯一出来た友人だった…。
僕の初恋の事や美容師を目指したキッカケも知ってるのは美容室以外だと彼だけだ…。
長谷部くんは年上の彼女さんと中学生ぐらいの時に出会って、彼女を追いかけて上京して"自分の(BAR)お店を持ってバーテンダーをする"という夢を叶えていた。
僕より先に上京していてから、上京する時にはアドバイスをくれたり…気を許す仲なのかな…?
そう思ってるのは僕だけかも知れないけど…。
「なんで……神様は意地悪なんだ~…、長谷部くんは僕と似た状況なのにこんなに上手く行っててさぁ…」
「それは……あれだろ、"髪の毛を切らせて欲しい"って言った時に…お前がちゃんと告白さえしていれば、こんな事になってないはずだ…」そう言うと彼女の事を少し思い出し照れくさそうに言う長谷部くん。