第26章 ミラー越しの君に恋をする(燭さに)
「香澄お姉さん待っててね…
僕は美容師に絶対になるから…」
『みっちゃん…約束ね…
じゃあ…これを渡しとくから、次会う時にはカットしてもらう時だね』
そう言うと"お母さんから貰って特にお気に入りなんだ"と自慢していたヘアーアクセサリーを僕の手に握らせてくれた。
香澄お姉さんと僕は離れ離れになった…。
そして小学校を卒業して新年度中学生になった、小さかった背はグングン伸びて行き…眼帯も辞めると…色んな女の子に声を掛けられる事が増えていた。
でも僕は香澄お姉さんしか興味はなかった…。
中学校では好成績を維持して高校の進学を期待されていたけど、周りの反対を押し切って通信制の高校と美容師の専門学校を掛け持ちする事にした。
カットモデルはノーカウントで、絶対に最初にお金のやり取りが発生するのは香澄お姉さんと決めていたから…。
早く大人になりたい…あの綺麗な髪に触れたい…。
そんな淡い期待を抱いて高校入学する年の三月…
何気ない日常に…穏やかに過ごしていま宮城を…大きな揺れと津波が襲ってきた。
その地震が残した爪痕は深く…。
僕の両親は無事だったけど、美容室は営業が出来る状態じゃなく中は滅茶苦茶になってた…。
香澄お姉さんの両親は地震で家ごと倒壊し…その瓦礫の中から二人の遺体が発見された。
両親の訃報に慌てて帰省した香澄お姉さんは今まで見せたことのない…ただ悲痛な表情を浮かべていた。
そんな君を支えたい…でもまだ未熟な学生の自分が…なんて言葉を掛けていいのかなんて分からなくて…影から見守る事しか出来なかった…。
通夜と葬式が終わり…遺骨になった別れの日に香澄お姉さんの傍にいる男の存在に気がついた…。
嫌な予感がした…でも確信はない…。
だから見て見ぬふりをする…。
それから香澄お姉さんは倒壊した家を手放した…。
両親の事を思い出すのが辛いから…宮城を出て行くんだってさ…。
見送りも…君の前に姿を見せる事も出来ないままに…。