第26章 ミラー越しの君に恋をする(燭さに)
父が後ろ髪が見やすいように大きめな折り畳み式の鏡を広げて確認すると『わぁー…綺麗になってる、これで大丈夫です!』彼女の歓声で満足そうに父はカットクロスを取る。
すると僕の身体は勝手に君の元に動いていた…。
驚いてる父と母を置いて、彼女の手を取り…"お姫様扱い"をしてエスコートする…一人の男して見て欲しくて…意識させたくて…。
そして気がつくと僕は思った事を口に出していた。
「ねぇお姉さん、僕が大きくなったら美容師になって…お姉さんを今よりもっと綺麗にしたいんだけど…」
『えっ……??』目をまん丸とさせてびっくりしてる彼女を見て、父が慌てて声を掛けて僕と彼女の繋いだ手を離すように催促をされる。
「あっ、息子の光忠が勝手にすみません…気になさらず…」
「お父さん酷いな…僕は本気だよ、この美容室を継ぐのは前から思ってたよ
でも初めて"切りたい"って思ったのはこのお姉さんだったから、予約をしたかっただけだよ…」
手を離すまいとギュッと握り直した手に僕とは違う力が加わって…優しく握り返してくれた柔らかい手の感触と共に…。
『光忠くん…私で良ければ』
「ほんと?じゃあ僕の"初めてのお客さん"はお姉さんだから約束だよ…いっぱい練習して上手くなるね
光忠じゃなくて"みっちゃん"って呼んで…如月お姉さん」
『私の事は"香澄お姉さん"でいいよ、みっちゃん…』
そう言って握っていない方の手で僕の頭を撫でて微笑んでくれた君。
小学4年生男児の戯言と君も僕の父と母も捉えただろう?
でも僕は本気だった…。
それから2、3ヵ月に一度は髪の毛の手入れに来てくれる香澄お姉さんとの日々が二年過ぎたころ…。
社会人として働いていた香澄お姉さんが宮城にある支社から東京にある本社に異動という辞令が下った。
年を明ける前にはもう上京しなければならない…。
僕が小学校を卒業する頃にはもう香澄お姉さんはこの宮城から居なくなる…。