第24章 ふたつの恋のシグナル・中編(宗さに・薬さに)R18
アトリエの前に着いて扉の鍵を開ける須美佳のあとに続いて部屋に入る薬研は口にする。
「秦先輩…あそこまで気使いすぎて疲れないか…?」
「えっ??あの…そんな風に見えましたか…?」
「あぁ、見えた…
宗三がこの別荘に連れてきたのは俺達の絵を描く事に集中させるためだろ??
だから食事とかも気にせずにさ、秦先輩の出来る事をやった方がいいんじゃないかと俺は思うぜ…」
「…でもいきなり言われても、どうしていいか分からないんです…」
「いきなり気にしないようにするってのも無理そうだけど…俺の前では気を使わなくていいからな??
…例えばそうだな…もし今晩でも裸になれって言われたらなれるから」
「えぇ!?……えっと……それは……その……私が困ります…
心の準備が出来てないので…多分描けません……」
「そういう風に少しずつでいいから言ってくれるか?」
「分かりました…
あの描き始めますので、あそこに座って貰ってもいいですか??」
そう言うと須美佳は一つの背もたれの付いた椅子を指をさすと薬研は言われた通り深く腰を掛けた。
「あぁ、こうか…??」
「そうですね、大丈夫です。
で、視線なんですが面接の時みたいに私の顔じゃなくて、なるべく鎖骨辺りに視線をお願いしたいんですが…」
「やってみるよ…上手く出来るか分からないが…」
「描き始めますね」
「あぁ、いいぜ」
その言葉を最後に二人の会話が止まりシーンと静まりかえる。
須美佳が筆を走らせるその真剣に見つめる先にはモデルの薬研が居て…。
集中してるところを邪魔しまいと薬研も座る事に意識を向けた。
人物画はすごく難しい…
モデルの視線が気になって上手く描けなくて…
でもモデルが薬研くんだからだろうか…
その視線が気にならない…
私のお願いを忠実に守ろうとしてくれてるから…?
さっきの私を気遣う言葉を発してる目線が厳しいものだったから
優しい目線が………
落ち着いて絵に描く事に集中出来て心地良いんだ…。
一時間を告げるアラームがピピッと鳴り響く。