第23章 ふたつの恋のシグナル・前編(宗さに・薬さに)
二人の講師をしている居間に絵を描く時間が終えた宗三と香澄が戻ってきた。
「戻りました……」
『あともうちょっとでスケッチ終えたのに…
時間に厳しいな…左文字先生』
「ずっと同じポーズしてるのは疲れるんですよ…」
「香澄ちゃんおかえりー
左文字先生、小夜くんは理解するのが早くて教えやすいですよ」
「だそうですよ、褒められましたよ
良かったですね…お小夜」
「…うれしいです、宗三兄さま」
『須美佳ちゃんって弟くんに懐かれる属性なのかな…
あたしの弟の陽二にも勉強教えてくれたよね…?』
「そうだねー、少し懐かしいなぁ…
でも最近は陽二くんに会ってないけど元気にしてる??」
『元気だけどスゴい生意気ざかりの反抗期だからな…』
「また会えると嬉しいんだけどね、勉強教えてもいいかなって…」
『ダメ元で聞いてみとくね…』
課題を解けるが嬉しかったようで小夜はまだ解こうとしている。
その様子を少し嬉しそう見つめる宗三に須美佳は声をかけた。
「あの左文字先生、私の方は出来ましたので見て貰いたいんですけど…
お時間大丈夫ですか??」
「もう描けたんですか…?
得意な風景画だと早いですね…見せて下さい」
須美佳がスケッチブックを渡し、宗三は居間の隅の壁際まで行くとスケッチブックを広げてみる。
母屋にあたる大きな邸と庭を生い茂る緑が丁寧に…あと控え目に薬研と小夜の二人の姿が描かれていた。
「構図が良いですね、大木を描きたいところを敢えて描かないのは流石ですね…描かなくてもいいと言っても描く辺りが秦さんらしくて合格です」
「ありがとうございます…ボツになるようだった夜にまた描き直そうと思ったんですけど…雰囲気が変わってしまうので明日にしようと思ったんですが…」
「次の水彩画も期待していますよ」
宗三はスケッチブックを閉じて須美佳の手渡しをする。