第23章 ふたつの恋のシグナル・前編(宗さに・薬さに)
『左文字先生…意地悪だぁ…
でも描きたいから頑張るけど…
しかもあたしと須美佳ちゃんと条件違うのはなんで??』
「貴方は絵になるとこっちが止めても描き続けるでしょ??
抜け駆けは駄目ですよ…
あっ…でも秦さんはどれか一つの作品がセミヌードであれば良いですよ…
如月さんの無理な頼み事に付き合ったと思いますので…」
「へっ??私だけそんな条件でいいんでしょうか…??」
「その優しさに免じてって事で…あと秦さんは人物画が少し苦手ですよね?
なので風景画とか好きなもの描いていいですよ」
「俺の出番が少なくなるって事だな」
「えぇ…そうですね、でもこんな事もあろうかとお小夜の特別課題をもらって来たので薬研もやったらどうですか??」
「…ここにまで来て勉強かよ…」
「来年は進学するなら受験生でしょう…??
今やって置いた方がいいですよ…
ちなみに僕は教える気はないですけど…秦さんに教えてもらうといいんじゃないですか??」
「私で分かる範囲なら大丈夫ですけど…そうなると…人物画は油絵の方が両立しやすいですよね」
「秦先輩の迷惑にならないだったら頼むぜ…」
「僕は今日疲れたので明日から絵を描いてもらいたいんですけど駄目ですかね??」
『あたしが左文字先生のお願いを断れる訳がないのに…
でも描きたいけど我慢するよ…』
初日は移動だけで疲れてしまった事もあり、キッチンに準備されていたお鍋のカレーを温めなおし食べてから各自の部屋で休むことにした。
***
12月21日
起床時間は各自で決められた時間はなく自由に過ごす。
11時ごろに居間に向かうとテーブルには[献立:焼鮭・肉じゃが・油揚げのお味噌汁・ご飯]がすでに準備されていてゆっくり食事をする。
12時30分ごろ…二手に別れて、香澄と宗三はアトリエへ向かい…須美佳と薬研は広い庭に出る。
大きな大木の下でデッサンするアングルを確認すると、構図が決まったのか腰を掛けて須美佳はスケッチブックを手に取り描き始めた。
薬研はその様子を少し離れたところで見ていると…須美佳の座ってる大木の葉っぱが少し揺れた気がした…。