第23章 ふたつの恋のシグナル・前編(宗さに・薬さに)
須美佳が薬研の前に立ち、メジャーを持っている。
ポケットには独自の寸法表のメモを忍ばせて途中書き込みながら、知りたい箇所をメジャー測っていく。
……香るな、いい匂いだ
もっと近づきたい…触れたい…
俺の気持ちを知ったら、どうするだろうか??
こんなに近くに居れなくなるかな…
「薬研くん有り難うございます、参考になりました」
「そいつは良かった、当日はどんな絵を描いてくれるか楽しみだぜ」
「あんまり期待されると…私は香澄ちゃんより人物画は苦手でして…」
「秦先輩の出来る範囲でいいんだ、無理しなくていい…
それに選んでもらえただけで十分だしな…」
「…えっ??最後は小声で聞き取れなかったんですが…?」
「いや、なんでもないんだ…
じゃあ俺は移動教室だから先に行くな?」
「はい、有り難うございました
私はもう少しここに居るので…」
そういって薬研を見送るのを確認すると机の陰に隠してあった紙袋を手元に、その中には一度解いて丸く形成された赤い毛糸と編み棒を取り出して一人で編み始める須美佳。
……少し嘘をついた私を許して下さい
薬研くんの驚いてるところがみたくて…もし喜んでもらえるならと…こんな事しか出来なくて…薬研くんをモデル描く日までに…これを仕上げる…。
***
あたしのワガママ発言から須美佳ちゃんと後輩くんを巻き込んだ事を少し後悔しつつ、それでも左文字先生が動いてくれた事が嬉しさがこみあげる淡いの期待と、これで突き放されたら…という不安…。
そんな感じで約束の12月20日がきた…
別荘はあたしたちの住んでるところからはかなりの距離があるらしく、「人を乗せる長距離運転はあまり得意じゃないので、別荘の近くまで電車で来て頂けますか?」と予め渡された切符を3枚が用意されていた、三人で行こうって話をして駅に待ち合わせしてる。
『おはようー須美佳ちゃん』
「おはようー香澄ちゃん」
「如月先輩、秦先輩、おはよう
別々に来てるはずなのに結局同じ時間に揃ってくるなんて仲良しだな」