第23章 ふたつの恋のシグナル・前編(宗さに・薬さに)
『……そんな事ないよ、だって後輩くんいるじゃん』
「後輩くんって……薬研くんの事??」
『…そっ!!なんとかさ…お願いしてみてくれない??』
「……でも、私薬研くんとそんな仲良くないのに、無理だよ…」
『そうかな…そう思ってるの須美佳ちゃんだけっぽい気がするんだけど…ダメ元でもいいから頼んでみてくれないかな??
やっと左文字先生が折れてくれそうなの……須美佳ちゃんおねがい』
須美佳の目の前で祈るポーズを見せてなんとか繋ぎ止めようとする。
あまりにも真剣に頼むその姿を見て折れたのは須美佳の方だった。
「……分かった、でもあんまり期待しないでね」
『…ありがとう!!須美佳ちゃん』
須美佳はお願いをするなら、なるべく早く相手に伝えるべきだろう…しかも特殊な事だから尚更と思いながら…。
ちょうど二年生のクラスが移動教室らしく三年生の須美佳の教室の前を通り過ぎる。
須美佳は目当ての薬研の姿を見つけると声をかけた。
「あの、薬研くん」
「秦先輩??俺に話かけてくるの珍しい」
「放課後にお話したい事がありまして…時間ありますか??」
「大丈夫だけど、いつものところか?」
「はい、お願いします…放課後待ってます」
要らなくなった机や椅子が置かれている空き教室が二人の待ち合わせ場所、須美佳は同級生にも敬語で喋ってしまうほど口下手で香澄は幼なじみで敬語を嫌がったのでタメ口で喋れるようになったが、異性と話すところを他の生徒に見られたくない須美佳の気持ちを後輩の薬研は理解して人気のない場所で喋る事に自然となっていた。
須美佳が一人教室で待ち始めると、少し遅れて薬研が引き戸を開けて入ってきた。
「どうしたんだ?秦先輩」
「……凄く急なお願いがあるのですが…」
「俺でよければ力になるから、どんな事なんだ??」
「香澄ちゃんの頼みで……
その左文字先生がモデルで絵を描くみたいなんですけど……」
「うん、それで??
絵のモデルを俺にってことか??」
「はい……そうなんですけど」
「秦先輩の描いてくれるモデルだったら引き受けるぜ?」