第17章 春の悪戯(歌さに)
『そうなんです…
お薬飲んで落ち着いていたのですが…最近は効かなくなってしまって…お薬を変え始めたら肌が荒れてきて…こんな姿を歌仙さんに見られたくなかったんです…』
「きみは勘違いしてるようだから言うけど
"桜だけが春を訪れを感じさせるもの"
じゃないんだよ?
僕についておいで」
香澄のマンションから歌仙の運転する車を走らせて、どんどん郊外へ離れて行くと次第に田園畑の風景が続く。
目的地に着いたのか車を停めて…連れてきた場所は萱葺の屋根が基調となった木造建築に手入れの行き届いた庭園が目を惹く。
『ここは??』
「きみの様子が前々からおかしいと思っていたんだ。公園に居る時間を気にしたり、俯く仕草が増えたりして…僕の身近にきみと同じ症状で悩んでる人が居たんだ…
古い友人の茶会に招かせてもらったんだよ」
『でもいきなりでご迷惑ではないですか…??』
「心配ないさ…それよりきみは抹茶は大丈夫かい??」
『はい…大丈夫ですが…私作法とか分からないんですが…』
「立礼茶席だから抹茶を点ててもらったものを頂くんだよ…作法は気にしなくても大丈夫さ」
『そう言われると安心しました…』
歌仙は慣れた足取りで立礼茶席の広間に向かうと上座の位置するところには表千家がお点前をする長テーブルと椅子が一脚ずつ並んでいて、上座から手前には長テーブル一脚と椅子二脚ずつが並べられてる。