第17章 春の悪戯(歌さに)
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桜の開花が芽吹く季節は僕が一番好きな季節だ…。
きみと初めて過ごす春が待ち遠しくて柄にもなく胸を躍らせた。
満開の桜を誰かとではなくきみと一緒に見れる事が単純に嬉しくて浮かれていた…
そんな時にきみから着信音が現実に引き寄せる。
〈もしもし、準備は出来たかい??〉
《歌仙さん…あのギリギリにすみません…今日の観桜は中止に出来ないでしょうか…?》
〈急にどうしたんだい…?〉
《その理由は…私の体調が優れないといいますか…》
〈それは大変だ、車で行くから
すぐ病院に…きみは部屋で待っていてくれ〉
《あっ!!歌仙さん…待って下さいっ…
香澄の言葉は歌仙に届かず、プツリと電話は途切れてしまった…。
体調が優れないのは事実だが風邪ではない…。
会いたくない…会わせる顔ではない…。
数分後、車を走らせて香澄のマンションに向かい来客用の駐車場に止めて、エントランスを小走りになり息が少し上がる…
まったく雅じゃない…。
何かあった時に互いの部屋の合鍵を交換していた。
なるべく冷静を装いながら玄関扉を開ける…ゆっくり歩みを進めて部屋へと向かう。
顔が見れないほど布団が丸くなってる。
人の気配を感じたのかモゾモゾと動き出す。
「大丈夫かい…??」
『これ以上は…近付かないで下さい…歌仙さん…』
「……それで僕に通じるとでも??
理由を教えてくれないか?」
『歌仙さんは春がお好きなので…本当は観桜を一緒に行きたかったです…
でも私…花粉症なんです…』
「花粉症って…くしゃみが止まらなかったり目が痒くなったりするやつかい??」