第1章 逃げられない
私はツクモプロダクション所属の駆け出しアイドルだ。
『そろそろガンガン売り出していくから!』そう笑顔で言い切った社長はいなくなり、弟の月雲了が新社長になった。
私のデビューのプロジェクトもポシャり、なんとも宙ぶらりんの状態で放って置かれている。
――そんなある日。新社長に社長室に呼び出された。
「失礼します」
新しい社長になってからこの部屋に足を踏み入れるのは初めてだが、至る所に小さい子が遊ぶオモチャが置かれているのが気になる。
そしてもう一つ。値踏みするように四人の男がこちらを見ている。
ダーツの矢を手で弄びながらこちらを鋭い目つきで見ている少年、ソファにふんぞり返って悠然と長い脚を組んでいる女慣れしてそうな男と、その向かいに腰かけている柔らかい表情の一番この中では話しかけやすそうな男。そして、コーヒーをいれようとしていたと思われる一番眼光の鋭い男。
これから新社長がプッシュするという『ŹOOĻ』だろう。
「やあ、よく来たね」
歓迎するように社長の椅子で両手を開く男――月雲了だ。
「お呼びとうかがいました」
頭を低くして、了の言葉を待つ。
「君が愚兄の秘蔵っ子のだねぇ?」
「……はい。です」
良くしてくれた社長を愚兄と呼ぶ了の言葉に反射的に拳を強く握ってしまう。
「君に良い話があるんだ」
了 が一枚の写真が大きく載ったアイドル雑誌をデスクの上に置いた。
「この表紙の彼等、知ってる?Re:valeっていうんだけどさぁ。こっちの可愛い子は僕の友達なんだけど、なかなかツクモプロダクションに来てって誘ってるのに来てくれないんだ」
だから、と前置きする了の視線に本能が逃げ出したいと訴える。聞けば引き返せなくなるのがわかるのに、足はピクリとも動かなかった。
「こっちの星影のユキを色仕掛けで落として。ああ、この話しを持ち掛けられた時点で君に選択肢は存在しないんだ。万が一でもNOと答えれば、クスリ漬けになって行く所が決まってる。肥溜めだけど、みたいに綺麗な子が来たら大喜びされるだろうね」
クックッと嗤う男に自分から「よろしくお願いします」と頭を下げた。