第23章 緑谷出久は忘れようとする
幻想の名前を聞いて一瞬で鼓動が早くなるのを感じた
緑谷と幻想が付き合っていたのは高校時代から耳にしていた。
俺はその動揺を緑谷に悟られないように相槌を打つ
「僕すごく好きだったんです、彼女の事。……だけど、いつも彼女は僕の事を見ていないんです」
そう言うと緑谷は何かを受け入れたような顔をして
「高校でも、卒業してからも、彼女はいつも誰かを探しているような気がするんです……僕には優しくしてくれても、二人で遊びに出かけても、…どこか遠くを見てるんです。」
そう言って微かに笑った。
それを聞いてなんと言ってやればいいのか分からず黙っていると
「…相澤先生」
と緑谷に名前を呼ばれた。
「僕、…気づかないふりしてたんです。…我慢できると思った。
だけど…彼女は寝言でよく相澤先生の名前を呼ぶんです。一度だけじゃなく、何度も」
緑谷は俺の目を真っ直ぐに見てそう言った。
「…ぼくもう我慢できなくて、それで最近別れたんです。だけど、彼女の事考えるとまだ忘れられなくて……よく眠れないんですよね……」
そう言うと緑谷は届いたかつ丼に箸をつける。
俺も届いた定食に箸をつけながら、緑谷の言葉を整理した。
幻想が、俺の名前を?
なぜ?
だって、あいつは緑谷と付き合って……
俺が思考を巡らせる間に、緑谷はかつ丼を食べ終え箸を置いた。
そして俺が食べ終えるのを見て緑谷は
「相澤先生、僕の負けです」
そう照れくさそうに笑った。
店を出ると緑谷の携帯に連絡があり、緑谷は再び事務所に戻るようだった。
俺は酷くやつれた緑谷にかける言葉を探すが、
何も見つからない。
「…悪い、緑谷、俺はこういう時なんて言えばいいのか分からない」
そう言うと緑谷は、一瞬驚いた顔をして。
「幻想さん、もうすぐ誕生日なんです。…連絡、してあげてください」
そう俺を見て微笑んだ。
_________
「………まあ、元気そうでしたよ」
そう言うとオールマイトさんは嬉しそうにしていた。
やつれて元気がなかったですとは言えない
俺は嘘をついてしまった。