第1章 相澤消太の違和感
世界総人口の8割が何らかの特異体質を持った超人社会で、個性を悪用する者を抑圧し世界の平和を守る存在である“ヒーロー”が脚光を浴びていた。
ヒーローは自身の個性を使い侵される平和から人々を救うことができる。
そのヒーローの中でもトップヒーローを養成する登竜門のような高校“雄英高校”に俺は教鞭をとっている。
【相澤消太side】
「はい、今日はここまで、早く帰れよ」
「「はーい」」
長い一日が終わると職員室での業務に移る。
生徒一人一人の状況報告や学内行事への準備資料、様々な仕事が残っている。
1年A組の担任になってしばらく経ったが、生徒の性格や個性の使い方の傾向など把握してきた。
生徒の状況報告をパソコンに打ち込んで一時間ほどたった頃、ある生徒の項目で手が止まる。
「幻想 叶」
1年A組には様々な個性を持った生徒がいるが、その中でも彼女の個性は異彩を放っていた。
“他者の記憶を改ざんする個性”
目を合わせた者の記憶の一部を改ざんすることができる。
改ざんの内容は彼女自身が想像したことに書き換えられる。
また、彼女の個性による記憶の改ざんは彼女自身が解除するか、一定の条件を満たし解除する以外には解くことができない。
轟や爆轟、1年A組の生徒の攻撃力の高さにはやや劣る。しかし、使いようによってはいくらでも可能性がある。ヒーロー科では類を見ない個性だ。
「ていうか、個性だけなら全国でもそういないんじゃないか」
幻想はまだまだ個性の使い方は完璧とは言えないが、多種多様な状況下で柔軟な行動や判断力が他より長けている。
しかし……
彼女はどこか掴めない雰囲気をまとっていた。
今年の1年A組は良くも悪くも賑やかでよく喋るやつが多い。それ故クラスの連携もよく、比較的仲の良いクラスになってきている。
その中で彼女はどこか異様な雰囲気を出していた。
といっても浮いているわけではない。演習や訓練ではクラスの奴らと協力しているようだしそれなりの結果を残している。クラスの女子たちともよく話しているのを見かける。
上手く溶け込んでいるようで、浮いている。
心を開いているようで、距離を取っている。
そんな得体の知れない不自然さが俺の目には映っていた。
なんなんだ、この感じは。