第3章 恋慕
キスを覚悟して閉じた瞳。
だけど。
すぐ近くに感じた気配は唇に触れることなく、離れていった。
「……………っ」
しまった。
って、頭が認識するのは大抵取り返しのつかないとき。
「閉じたな、目」
そーっと開いた両目にうつりこんだのは、勝ち誇ったようにこちらを見下ろす、悪魔。
「………っ、手首、離してくれないから逃げ場なかったのっ」
「いつもみたいに反らせば、顔」
「………そんな、の」
今さら、視線反らしたって遅い。
たぶん余計、逆効果。
まっすぐに見れない瞳は、肯定の証し。
あたし、あの瞬間。
蓮とのキスを、望んでたもん。
「桜月」
うるさい。
呼ばないで。
そんな声で、名前を呼ばないで。
「……………………あんたといると、苦しい」
苦しくて仕方ない。
視線が甘く絡めば絡むほど、息ができない。
「お願いだから、これ以上混乱させないで。入ってこないで。忘れたの。やっと忘れたのに。やっと、他の人好きになれたって、思ったのに……っ。嫌いだよ。その顔も、声も。全部。強引なとこも、全部全部、だいっきらい。いつもいつもそーやって組敷いて、見上げるあんたの顔なんて、見たくないっ」
「………………………」
押さえつけられることなく自由になった両手で顔を覆って、隠す。
こんな顔、見せられない。
蓮にこんなみっともない顔、見せられない。
だけど。
両手はあっさりと外されて。
唇が重なった。
頭の芯が溶けるようなキス。
恋人たちがするようなキス。
ただの性欲のはけ口に、するようなキスなんかじゃない。
愛おしむような。
そんな、優しいキス。