【モブサイコ100】その花の名前は。【島崎亮】【短編集】
第1章 その瞳に映るのは
雨が窓を打ち付ける音が心地よい。昼間なのに薄暗い部屋の中では、時間が恐ろしくゆっくり過ぎているような感覚に陥る。時間は有限であるから、なんとも有難いことだ。
「というと?」
「私が、どんな形であれ特別な人間…他の人と外れた部分が多ければ多いほど、貴方のことを理解できると思ったので。なのに私は所詮左利きということ以外は、他の人と変わらないじゃないですか。ほら、超能力もないし、視力だって1.5ありますし」
島崎さんに向かって、とても無神経なことを言っている自覚はある。
だけど私は、彼の見ている世界をどうしても見たい。彼のいる暗い世界に私だって身を置きたい。
島崎さんのいる所まで堕ちたいという気持ちは、一緒にいる時間が長くなればなるほどに膨らんでしまってもはや収拾がつかなくなっていた。
今の私は、さながら破裂寸前の風船のような、いつ破けるか分からないからと触れる人もおらず、ただ空にプカプカ浮いているだけの根無し草だった。
「はぁ…何を言い出すかと思えば。君はバカですか」
「…ごめんなさい」
「謝らせたいわけじゃありませんよ」
島崎さんは徐ろに隣に座る私へと手を伸ばし、頬に手を添える。そして、瞼をゆっくりと撫でては止まってを繰り返した。
私はその行動の意図がわからず、だけど声を出すのも何となくはばかられて、されるがままになっていた。
「君は私の大切な人だ。君がもし盲目になってしまったら、私は悲しむのかもしれない。しかしまぁ…この真っ暗な世界で死ぬまで君と2人きりというのも、悪くない気がします。そして私はそれを叶えることが出来る…例えば今すぐにでも。君の瞳を未来永劫奪うことだって、今の私にはできてしまうんですよ」
さっきまで私の瞼を行き来していた親指が目頭でピタリと止まり、反射的に身体が強ばった。
抉られるのか、目を。
「なんて、するわけないですけどね。あ、もしかして期待しましたか?」
「……からかわないでください」
いつもの調子に戻った島崎さんに安堵してか、彼の胸元に倒れ込む。島崎さんが言うことは嘘と本当の境目が分からなくなる。
いつだって主導権を握るのはこの人で、島崎さんを見ていると、私が彼に敵う日は来ないんじゃないかとさえ思えてくる。