第1章 夢で会ったキミへ
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──な、んで……私、叩かれたの?
次に聞こえたのは総悟の拒絶の声だった。
私はただ心配しただけなのに、何をそんなに怒っているのか。
文句でも言ってやろうかと総悟に視線を移した私は、総悟の表情を見て目を見開く。
「おい、流石にそれはねぇだろ。に謝れ」
「嫌です。何で俺が謝らねェといけねーでさァ」
諭す土方さんの言葉を聞かないまま総悟は部屋から出ようと踵を返す。そのまま何も言わずに部屋から出て行ってしまった。
その場に残られた私と土方さん。
土方さんが「たく、あの野郎」と文句を漏らしながら大きな息を吐く。
『あはは…じゃあ私も寝ます!あの、お騒がせしてすみませんでした』
「あ?なんでお前が謝るんだ。お前は悪くねェだろ。アイツがガキなだけだ、気にすんな」
『そう、ですね…。多分総悟の虫の居所が悪かったのかもしれません。ほら思春期あるあるの母ちゃん子供扱いすんな!的な?』
「……どうだかな」
なんとなく気まずい雰囲気がただよる。いつもなら総悟の態度に怒る私も、なんとなくそんな気が起きなかった。
『それじゃあ、お先に失礼します』
「なんだ、アレだ…総悟が悪かったな」
『ふふ、なんで土方さんが謝るんですか?じゃあおやすみなさい』
「あぁ、ゆっくり休め」
いつもの軽い挨拶を交わし居間を後にする。屯所内の縁側を歩きながら、手の甲を見つめた。結構な力で叩かれたのかヒリヒリと傷み、熱を持っていた。これは自室に戻る前に冷やすのが先になりそうで
『……はぁ』
脳裏に過ぎる総悟の表情に胸がもやもやとして、息を吐き出す。
いつもみたいな憎たらしい顔でも
苛立った顔とも違う
悲しそうな、泣きそうな顔。
叩かれた私より痛そうな顔
『わけわかんないよ…ほんと…』
夜空にぽっかりと浮かんだ月を睨む。
私の呟きは夜風に運ばれて消えていった。