第2章 不仲
その日、ポアロでの仕事を終えた安室は愛車を運転しながら軽くため息をついた。
ため息の理由は今から行う組織の任務の同行者にあった。
組織の任務は常に気の抜けない状況にある。失敗は出来ないし不自然な行動も出来ない。
だがそれ以上にただ1人の女に安室は酷く精神的な疲れ、正しくは苛立ちを感じていた。
愛車を定位置に駐車しアジトに入る。
部屋に入ってすぐタバコを咥えたベルモットと立ち会わせた。
「カーディナルならもうすぐ来るわよ」
「そうですか」
「目が笑ってないわよ。本当に嫌いなのね」
「ええ、出来れば同じ任務に回して欲しくないのですが」
「それは無理ね、決めてるのは私じゃないもの」
ベルモットは短くなったタバコをジュッと灰皿に押し付ける。
「何がそんなに嫌なの?長年一緒にいる私でもあの子が嫌われる理由が分からないわ」
「そうやって周りの人を騙しているんでしょうね。全く恐ろしい女性だ」
安室は軽く笑うと吐き捨てるように言った。
その時、安室の後ろからドアの開く音が聞こえ振り向いた安室は一瞬冷めた目でを見て、すぐに張り付いた笑顔を見せた。
「行きましょう」
「ええ」
安室はに続いて廊下を進む。
2人は安室の愛車の元に着くまで一言も話さなかった。
普段、相手が女性であれば助手席のドアを開ける安室だが、今は真っ直ぐ運転席へと向かった。
シンとした車内にシートベルトの音やエンジン音がやけに大きく響いた。
「今日の任務、貴方は何をするんですか」
赤信号で車が停止してようやく、安室はに話しかけた。
「今日バーにくると思われる目標から麻薬の密輸ルートを探るの」
「僕はもしもの時のために貴方を見張れということですか」
「そうね、バーボンにとっては苦痛かもしれないけど」
「ええ、今もこの時間が苦痛ですからね」
「誰にでも紳士じゃなかったの」
「余程僕に嫌われる人でなければ」
「じゃあ私はまだ相当嫌われてるのね」
「ええ、ライと同じぐらい、いやそれ以上ですかね」
「そう、悲しいわ」
「その嘘くさい演技も、反吐が出そうだ」
安室の顔は全く笑みがなかった。全て本心。一つ一つの言葉が鋭く吐かれた。
残念、はそんな安室に軽く微笑んでそう小さく零した。