第4章 見えない傷
ポアロに行ってからしばらくの間、は組織内で安室と顔を合わせることはなかった。
もちろんポアロには行かなかった。
その道を通らないように遠回りさえしていた。
でもそれ以外は何も変わらない。
大学に行って、たまに組織の仕事をして、そして夜はジンに抱かれる。
情事の後、ジンの腕の中で抱きしめられたまま、は次の任務を言い渡された。
「バーボンと3日後の夜、B社のパーティーに参加してもらう。お前らはパーティーが終わった後、主催者である社長のパソコンからある情報を抜き取ってこい。聞くとこじゃココの研究員が漏らした薬のデータを海外に売ろうって話だ」
どちらかと言えばはハッキングや情報収集など組織内での任務が多い。たまにあるハニートラップを本人は苦手の分野としていた。
しかし今回は恐らくバーボンがハッキングをすることになる。
自分は社長の引き付け。
決して失敗は出来ない、そう思っては静かに目を閉じた。
任務までの時間はあっという間に過ぎ、現在と安室はB社のパーティーに参加していた。
車内では淡々と作戦について話す。
が社長を引き付けている間に安室はまず監視カメラを作動停止にする。そして社長室へ潜入する。
時間としては15分あればいい。
社長には薬を飲ませて記憶を無くしてもらう、と。
はとある企業の社長令嬢として、安室はパーティーのスタッフとして潜入した。
社長はのことをひどく気に入った様子でパーティーの間何度も傍に寄ってきては中身の無い話をした。
パーティーが終わって安室はにアイコンタクトをとる。
それを合図には隣にいた社長にふらっと倒れ込む。
「あっ、ごめんなさい…ちょっと酔ってしまったみたいで」
「そうかいそうかい、あんまり飲み慣れてない様子だったしね。落ち着くまでちょっと奥の部屋で休もうか」
そう言って社長はの肩を抱いて会場を後にした。
物置部屋のような所へ連れられ、その奥にあるドアを開くとそこはまるでそういったホテルのような空間が広がっていた。
社長がパーティーを開く本当の目的をここ数日で知ったはただ弱っている女を演じ続けた。