第3章 シルバーブレット
首元に歯型、それはジンとがどういった関係であるのかを証明するには簡単だった。
「つまり2人は、肉体関係にあるってことか」
「恐らく…。でもこれを知ってるのは組織でも極一部の人間だけよ。そもそも2人ともそう簡単に人前には現れないし、ジンはともかくカーディナルは…」
「カーディナル…それがあの人のコードネームか」
「…そうよ。」
カーディナル…、そう呟いてコナンは何やら1人考え込む。
「悪い、続けてくれ」
「彼女はいつから組織にいたのか分からない。でもベルモットやジンとやけに親密だったはず。ジンがカーディナルを幹部以外の人間には会わせなかったらしいから彼女が高校生ぐらいになるまでは存在すら知られてなかったの」
「そこまでジンが執着してるのか…彼女に近づきたいけど下手に動いてバレたらジンが何するか分かんねぇな、」
せっかく掴んだ組織への手綱。
しかしそれはジンという存在によってぐちゃぐちゃに絡まる。
コナンにとってジンは自分を今の身体にした張本人。
行き場のない怒りを抱えながら、簡単に近づけないのはコナンが1番よく分かっている。
爪が皮膚に食い込む程、力強く拳を握りながらやはり頭の中では今日会った彼女の顔が浮かんでいた。
『灰原、お前、さんって知ってるか?』
イヤホンから聞こえたコナンの言葉に、その男はバーボンを飲む手を止めた。
静かにグラスをテーブルに置くと、イヤホンの音量を上げる。
灰原が取り乱して、長い無音の間に聞こえる雑音。
そして再び話し出す2人。
彼女が怪我、ポアロ、…安室、
『でもなんで安室さん、バーボンはさんにあんなにそっけなく接してたんだ…』
2人の会話を一語一句逃さないように聞き入っていたその男は、ゆっくりとグリーンの瞳を開ける。
『彼女、ジンのお気に入りだったはず…』
『見えたのよ。彼女の首元に、消えかけた歯型が』
『つまり2人は、肉体関係にあるってことか』
『カーディナル…それがあの人のコードネームか』
窓からの夕日が、バーボンに反射する。
その隣に置かれている、Sの字が彫られた未使用のライター。
男はそれをじっと見つめ、その文字に優しく、触れた。