第9章 伝授
「意味、わかんない」
「すみません」
そうだよね、矛盾してる。
「いや、そうじゃなくて」
「え?」
顔を上げると、櫻井さんはなぜか
とてつもなく、この上なく
優しい顔を、目をしていた。
少し、頬を赤らめて。
「……諦めないよ」
「え?」
「俺が誰を好きになろうが、勝手だよね」
「……はい」
確かに私には、櫻井さんに合う人を
決めつける権利はない。
「なぜか俺も不思議なんだけどさ」
「……」
「ちゃんのこと、離したくなくて」
「振り向いてもらえるように、頑張ろっかな」
そんなとき、震えていた涙腺から
私は涙を溢した。
その涙を、訳のわからない涙を
櫻井さんの、大きくて温かい手が
拭ってくれた。