第7章 接近
暖簾をくぐって、中に入ると
やっぱり中はモダンな感じがする。
でも、大将の声は全然モダンじゃないんだな。
「いらっしゃぁ~……お、ちゃーん、ひさしぶりだな、元気しとったか」
「うん、ひさしぶり大将」
沢山の人の話し声がするなかで
カウンターに身を乗せて小声で話した。
大将も私を見て察してくれたのか
耳を傾けてくれた。
国民的アイドルがここに来ているなんて
一般人にばれたら大変。
まあ、大将にとってはお金が入っていいだろうけど。
「櫻井さん、来てる?」
「おう、一番奥の、和の席」
「和の席?」
「二宮だよ。知ってるだろ?
あそこの爪楊枝、和の給料。ははは」
「うん……サンキュ」
大将が二宮さんと仲がよかったことにと
耳元ではははと笑われた苦痛に、苦笑いして
奥の席へと向かった。
もう、櫻井さん着いているんだな。
ちょっと、向井とふざけ過ぎたかも。
アイドルを待たせるなんて、やってしまった。
一歩一歩奥の部屋に近づいていく。
緊張して、周りのうるささにも
煙草の強烈さにも、気づかないくらい。
奥の部屋は、アイドルがよく来るからか
別世界の雰囲気がしていた。