第40章 scene ■
「…最初のきっかけはあったよ。レイは覚えてないだろうけどね」
「えっ、なに?知りたい!」
「レイはさ…初めて僕に、労いの言葉をかけた人だったんだよ。」
コーヒーに淹れた大量の角砂糖をスプーンでぐるぐると溶かしながら、あの日のことを思い出すようにボーッと波紋を見つめる。
"五条くん大丈夫?
なんか最近…疲れてない?"
"えっ…"
心底心配そうな顔。
こんな顔を誰かに向けられたのは、正直僕は初めてだった。
"いつも笑顔だし明るいからさ…
たまに心配になるんだ。無理してるんじゃないかって。"
誰も僕を気遣ったりはしない。昔から。
それに僕自身も気遣われるのは鬱陶しいことだと思ってた。
でもこの時初めて他人にそんなふうに労るようなことを言われ…僕は内心激しく動揺した。
マジでやめてくれ。
そんな顔してそんなことを言うな。
いいか、それ以上は絶対やめろよ。
厄介な感情が湧いちまうだろ…
あのときは、
そんなふうにものすごく焦ってた。