第5章 possession
五条はしばらくしてから静かに口を開いた。
「人は、人を愛していると思い込んで、実は自分自身だけしか愛していない場合が多いと思う。俺自身もそう思うことがある。だから時々自分を試したりする。」
そう、こんなふうにな…
レイは明るく返した。
「それでもいいじゃん。愛することを怖がってたら、何も得られないし。私はね…これまでの人生でずっと、誰かに愛される価値のない人間なんだって思ってた。でも…もっと悪いことがあったって最近知ったよ。私自身が心から人を愛そうとしなかったんだよ。」
「・・・」
何も言い返せなくなる。
こんなに心を掻き乱されるのは初めてだと五条は思った。
「同じ星空でも、星座を知ってる人と知らない人とでは、ぜんぜん見え方が違うんだろうなぁ…星座を知らないと絶対繋がりっこない遠く離れた二つの星だって、いったん知っちゃうと他に繋げようがない気がしちゃうんだよね。…人の人生も同じかもって思うんだー」
「それって…」
五条は口ごもった。
柄にもない余計なことをまた言ってしまいそうな気がする。
まだ空を見上げて歩いているレイに、五条は言った。
「空見るの好きだな。前向いて歩けよ。転ぶぞ。
手繋いでる俺まで転びそうで怖いんだけど。」
「悟も普段から空はよく見た方がいいよ」
「んな余裕ねーよ。いつも。」
するとレイは不機嫌そうに五条を見た。
「心に余裕がある時に空を見上げるんじゃないよ?空を見るから心に余裕ができるんだよ。」
ハッとしたように目を見開くと彼女はまた上を見て続けた。
「空を見上げるとさー、全ては繋がってるって実感できるんだよね。空は何があってもどこへ行っても一緒にいてくれる。いつだって味方になってくれる」
「なぁ…レイ、俺決めたわ」
「へ?」
突然のその言葉に驚いて五条を見る。
ギュッと繋がれた手に力が入ったのがわかった。
五条は空を見上げたあと、レイに視線を移して強く言い放った。
「空になるわ、俺。」
彼の真っ白い髪は、月光と星の瞬きで煌々と揺れていた。