第39章 dignity ■
「でもね、私はその人の全てを否定したくはないし、できないの。だって……許せない何かがあることだって、その人の…優しさだから。…その人はね…凄く優しかったの。」
伏黒は目を見開いた。
また津美紀の言葉が反芻された。
"人を許せないのは悪いことじゃないよ。
それも恵の優しさでしょう?"
「だから…伏黒くんは優しいんだよ。きっと、誰よりも…
さっきの悟との会話も聞いていたけど、伏黒くんは自分が犠牲になっても大切な人を助ける覚悟がある人でしょ?」
レイは優しい笑顔で微笑んだ。
「…でもね、死んでほしくはないよ。伏黒くんには。
だからなるべく、自分を傷つけないで。
ね、私もこんなふうに"不平等"なの。」
ドクンと伏黒の鼓動が跳ねた。
いつも笑って、綺麗事を吐いて、
俺の性根すら肯定する。
そんなあいつも、俺が誰かを傷つけると本気で怒った。
俺はそれにイラついてた。
事なかれ主義の偽善だと思っていたから。
でも今はその考えが間違いだって分かってる。
俺が不平等に助ける人間を選ぶように、
俺を選んで心配してくれてたんだろ。