第38章 voyage ■
生まれて初めてそんなことを囁かれた。
玲瓏なその響きは、理解するのに時間がかかった。
「レイはまだ怖がってるね。
上を見るふりして見てない。
いつまでそうしてるつもり?
なんで過去の自分でいようとする?
なんで今の自分を愛してあげないの?」
"過去を捨てなくては、未来の場所はないんですよ"
伏黒に言われた言葉を思い出す。
目を見開いて固まるレイに、五条はまたゆっくりと語りかける。
「そんなんじゃいつまでも幸せは掴めないよ。
幸せは幸せになる準備があるやつの所にしか来ない。
レイは、自分が幸せになることを、自分に許してないんだ。」
五条が寂しげに目を逸らした。
"私ではなく、他の誰もあなたのためにその道を旅することはできません。あなたはあなた自身のためにその道を旅しなければなりません。
それは遠くなく、手の届くところにあり、おそらくあなたは生まれてからそれを続けていて知らなかったのでしょう、おそらくそれは水と陸のいたるところにあります。
全ての夢は叶う。もし追いかける勇気があるなら"
…あの時必死に訳したこの言葉は、正直当時はよく分からなかった。
でも…今ならわかる気がする…
レイが下唇を噛み、潤んだ目で眉を寄せた時、スっと流れてきた五条の碧眼と目が合った。
「は……もうホント可愛いな……」
ドキッと鼓動が跳ねた瞬間、耳元に口を寄せて静かに囁かれた。
「…次そんな顔したら…我慢できなくなるから。」
覚悟してね…
「僕はあいつにはなれないし、なりたいとも思わない。だから僕は僕の愛し方でレイを……」
……愛したいんだ。
「僕は絶対に諦めないから。
レイを幸せにすること。」
……覚えとけよ。
寂しげに笑ったかと思えば頭をポンポンと撫でられる。
その刹那げな声と共に体が離れていった瞬間、レイは五条の腕をギュッと掴んだ。
一瞬のことに五条はよろめきながら慌ててレイの頭の両隣に手を付き、驚いたように目を見開く。