第38章 voyage ■
大好きな人の吐瀉物や体液なんて全く汚くない。
きっとそれほどまでにレイにとって傑は王子様なんだ
そう思っていた。
だけど……
ある日、またレイとの任務になった。
そこで非術師の男女2名(おそらくカップル)を助けたのだが、呪霊によって普通の人間が被る被害は自分たち術師とは比べ物にならないくらいにダメージの大きいもので、ほんの少し呪霊の音響が鼓膜に入っただけで、男の方が激しく嘔吐しはじめた。
ギョッとした瞬間に、すぐさまレイがその男性の背中を摩り、服や足に吐瀉物が飛び散ろうとお構い無しにひたすらそばにいた。
そして、落ち着いた頃合いにはハンカチを取り出してその男の口元を拭い、手や腕についても全く気にする素振りはなく、ただただ表情を歪めて心配そうに男の顔を見ていた。
その間、多分恋人であろう女の方は目を見開いたままなにもできないでいた。
……こういうことができるのって、
大好きな人に対してだけじゃないんだ。
汚いはずのものを、汚いと思わない。
レイの心は清らかすぎる。
純粋無垢すぎる。眩しすぎる。
ああ…
思い出した。
子供の頃、あの場所でこいつに会ったときに感じた違和感。
生気がこもってないくせに、
"眩しい"
そう感じたんだった。
僕が目が良すぎるとかやっぱり関係なかったんだ。
この頃になると、もう僕は気がついてた。
傑の気持ちにも、自分の気持ちにも。
そしてひたむきで一途なこのお姫様の気持ちにも。
「なあ… レイ…
そろそろマジで、傑に告白したらー?」
「っえ!そんな何いきなりっ…」
「お前にとっての王子様だろ。」
「っな?で…でも…私はお姫様じゃないし…夏油くんほどの人になんて…つ、つりあわないって分かってる…から…」
は…何言ってんだろこいつ…
釣り合うとか釣り合わないとか、それってなんの世界線で喋ってるわけ?
マジどーゆー価値観してんだよ。
僕はレイのことが好きだ。
でも…いや、だからこそ、早く傑と幸せになって、もっとお前と親友の笑顔が見たいんだよ。
ていうか、じゃないと僕が諦めきれなくなる…