第38章 voyage ■
ひとまず落ち着いた感じで嗚咽が止まった後、なんとレイは傑の口元についている吐瀉物を素手で拭った。
突然のその行動に唖然としている傑の気持ちはよくわかる。
まるで汚いとも思っていない、むしろ綺麗な何かを愛でるような手つきで丁寧に拭っている。
しかも…
「はぁ…ごめんね、私なんにもできなくて…
できることなら変わってあげたい……」
そんな発言を、そんな顔とそんな行動でされたら誰だって文字通り鼓動が跳ね上がるだろう。
傑はなんとか声を振り絞って手を掴んだようだった。
「ちょ…ちょっと、レイ、何してる、
触っちゃダメだ、早く手を洗って…」
無理やりレイの手を石鹸でガシガシ洗い始めた。
「…あ…そんなにいいよっ、汚いなんて思ってないよ?それよりっ、夏油くんはもう大丈夫なの?」
「ん、今のでなにもかも吹き飛んでしまったよ。はぁ…見苦しいところを見せてしまってごめんね。君にだけは見られたくなかったな…」
「えっ、そんなこと言わないでよどうして?私は夏油くんのどんなところも全部見たいし知りたいよ」
「っ!…そその発言はダメだよレイ。絶対にダメだ。」
「えぇ?どういう…」
「他の男には絶対に言うなよ。わかったね?」
「う、うん…そりゃ夏油くんにしか言わないけど…」
「あとね、そういう顔も、他の男に見せるの禁止。」
「っえ?どういう顔?」
「ふっ…無自覚か。いや逆に無自覚じゃないと困るな…はぁ、なんだかまたクラクラしてきたな…」
「えぇ?!どうしよう?!やっやっぱり何か口直しに飴とかチョコとかっ…あ!私ミンティアならあるよ?」
「ふ、いや、口直しは君でしたいかな…って何を言ってるんだ私は…どうやら脳にまで来てしまったかもしれない…」
「わぁあっどどどうしようっ?!」
さっきから蚊帳の外だった僕に助けを求めるように見てくるレイに盛大にため息を吐いた。
なんでこの状況でイチャイチャ見せつけられてんだろー
「はー、勝手にやってろよ」
そう言い捨ててその場を離れた。