第38章 voyage ■
「え、なに。お前の命ってそれだけの価値しかねぇの?
確かに虫も殺せないような顔はしてるけどさあ…」
「そういう意味じゃない…けど…私の命は…そう、虫以下だった。
五条くんの言うことが正しいなら、私は昔から多くの人に求められてないから価値は低いよ。」
「……それさあ…傑の前で言ってみろよ」
「……は?」
「大好きな傑に救われたんだったら、その命って傑同等なんじゃないの?」
「少し違う。私の命は夏油くんのためにある。夏油くんの命は私の命より全然価値がある。私は夏油くんのためなら命なんて容易く捧げられる。」
「っ…だったら」
「だから、夏油くんが私を見つけて救ってくれたように、私が見つけた命もどんなものでも価値があるの。目の前に見つけてしまった以上は、ちゃんと救いたい。夏油くんみたいに。」
僕はため息を吐きながら頭をかいた。
あーこいつもあの正論ボーイと同じ倫理観価値観になってくのかなー
だとしたら何が危険かって……
「…あっそう。ならまずは自分の命を大切にするんだな。あんなザコに殺られそうになってるようじゃ、守りたいものも守れないよ。」
「…うん、その通りだね。今日は本当にありがとう。助けてくれて。私も早く五条くんや夏油くんみたいに強くなれるように頑張るね。」
突然向けられた笑顔には口ごもった。
やっぱり純粋無垢なこいつには、笑顔が似合う。
「私たちが持ってるものはいずれ失うものばかりだよ…宝物も苦しみも喜びも命も…でも私は生かされた。だから生きなきゃいけない。生きて次の誰かに命を引き継いで…そうして命は続いていく…だから目の前の命は助けたいの。それがどんな命であろうと。」
で、数日後…
犬の飼い主は見つかった。
レイはその飼い主に、何故か電話で何度も謝っていた。
怪我を負わせてしまったことに責任を感じていたらしいけど、いやどちらかというと、謝るべきは管理が行き届いていない飼い主の方だし、そもそも本当に探してたのかよと言いたくなるくらいに遅かったし、僕は苛立った。
しかもレイは、もしもその犬の引き取り手が見つからない場合、頼み込んでなにがなんでも高専で飼おうとしていたらしい。
そうならなくて心底よかった。
だってそれを境にどんどん増えていきそうだし。