第38章 voyage ■
「いや違ぇだろ。残念だけど、命は不平等だよ。
ペットもいれば家畜もいる。毎日誰も知らないところで食べるために殺されてる動物も、俺らが知らぬ間に踏み潰したり何の躊躇もなく叩き殺してる虫だっているんだぞ。そういうのを前にして、命はどれも尊いですだのなんだのって言えるか?」
「・・・」
「殺処分されてる犬猫だって毎日どれだけいると思う?
…ほら見てみろよ…」
僕は何食わぬ顔で年間殺処分推移表をスマホで見せた。
年間で、犬約4万頭・猫約6万頭
一日平均100頭以上が殺処分されている。
レイは涙は見せないにしても、泣きそうな顔になった。
「俺が言いたいのは、救えない命があったとしても、責任を感じるなってことだ。」
「そんな…感じないわけにいかないよ。それにこれって全部人間の責任じゃん…」
「だからそれ言ってたらキリがないんだって。
それに命には優先順位ってもんがある。ペットの存在価値とそこらの野良の存在価値は違うだろ。ちなみに人間だって同じ。多くの人に必要とされている命ほど尊くて、そうじゃない命ほど価値は低いわけ。」
「ど、どうして…そんな言い方…」
「いや、事実じゃん。じゃーさ、もしも任務先で、今にも殺られそうになってる人間が2人いたとしよう。1人は誰もが知る有名人とかあー医者とかでもいいよ。で、もう一方は犯罪繰り返して逃げてるクズ野郎だったとする。さあ、レイはどっちを助けるのー?」
「…両方助ける」
「どちらかしか助けられない場合っ。」
「それでも…両方助ける!
たとえ自分が助からなくても…
目の前の命を助けるのは人間にとって1番大切なこと。」
僕は目を見張った。
…何言っちゃってんのこいつ?本気?
「…はぁ??なぁ…そういう正論じみた偽善はやめたほうがいいぜ?そもそも俺、できもしない正論語るのって大嫌い。」
「正論でも偽善でもない。これが、私なの。」
「……は…?」