第38章 voyage ■
この時のレイの顔は忘れられない。
元々おっきい目をさらにおっきくして、焦りとも絶望ともとれないようななんとも言えない表情のまま固まって動かなくなった。
「っ…おい大丈夫?
こんなとこで立ち止まるなよ。」
「・・・」
「おーい…どこ見てんの?生きてる〜?」
「っあ…ごごめん。そ、そうだね。
じゃあ私は…向こうを見てくるよ…」
レイは早口でそう言うと、走って僕から離れていった。
何こいつの狼狽ぶりは…
ちょっと異常だろ…
言っちゃいけないこと言っちゃった感じ?
いや、でも事実だしな。
しばらくしてから、凄まじい邪気と不協和音を感じてすぐさま駆けつけていくと、レイが呪霊と戦っているところだった。
しかもなにかを庇いながら。
そのせいでうまく攻撃が出せていない。
僕は一瞬でそれをやっつけた。
「っは〜、こんなザコも倒せないとか……」
ウンザリ気味でレイの元へ行くと、
「えぇ?!…犬?」
中型犬くらいの首輪のついた犬を必死に手当していた。
よく見ると両前足が傷付いている。
いやそれ以前に……
「おいレイ!ちょ…平気か?腕…」
「こんなのただのかすり傷だから!
私のことなんかよりもっ…あぁ…どうしよう…
ワンちゃんを…早く…っ…」
流れる自分の血はそのままに、ひたすら犬のことを気にかけていた。
最初は絶対僕の言葉で意識削がれてたなこりゃ。
で、補助監督の車で犬を動物病院に連れていききちんとした治療を施してもらい、そこまでは良かったのだが今度は飼い主を見つけないとならなくなった。
いつまでもこの病院で保護しているわけにはいかないから10日以内にどうにかしてくれと。
こういった場合、連れてきた僕らに責任を押し付けられる。
病院も病院側で、HP上に写真付きで呼びかけ、僕たちもネット上に公開したりした。
終始項垂れているレイに僕は言った。
「まあさ〜とりあえずは人間じゃなくってよかったよ。これが人だったらと思うと…」
「そんな!何を言ってるの?むしろ人の方がまだよかったよ!引き取り手いなかったら殺処分されちゃうんだよ?」
「……」
突然の声量に驚いていると、レイは小さく言った。
「それに…生命の尊さはみんな同じでしょ…」
その言葉には僕は反論してしまった。