第38章 voyage ■
飯に誘ったり、遊びに誘ったりするのでも、とにかく傑に後押ししてもらう。
レイは傑がいないと本当になんにもできないような奴だった。
あの頃みたいな妙な英語のリアクションは一切出てこない。
それには納得はした。
何年もの間、ほとんど誰とも話さなかったらしいから、英語どころか日本語まで忘れてしまっているような感じだし。それどころか、人との接し方まで忘れてる感じ…まぁそうなってしまっていても何も不思議ではないだろう。
僕との会話だって絶対に覚えてないだろうし。
内心、覚えていてほしかったというのが本音。
でも、まぁいっか。と思えたのは、
多分こいつは王子様を見つけたんだなって思えたから。
まだ旅は続いてるんだな、いや、むしろこれからなんだなって思えたから。
傑を見る時の表情だけは、いつだって夢見る乙女みたいにキラキラしていたし、まるでおとぎ話を聞いて妄想をする子供みたいな目をしてた。
これでよかったんだ。
これで。
そもそも、
傑は非常にモテる男だ。僕よりも。
あの容姿にあの性格、そこに天然も混じって平気で甘い言葉ばかり口にしてれば納得だ。
レイは誰がどう見ても傑のことがほんっとに大好きみたいで、もちろんそれは恋愛感情だと思ってたんだけど、でもそうとも思えないような違和感があった。
傑が白を黒だといえば黒になるような、悪を善と言えば善になるような、なんかそういう酔狂的な感情が織り交じっているようにも見えた。
単純に少し心配だった。
でも恋愛って、そもそもそういうものかもしれないとも思った。
人って誰かにゾッコンすると、そいつのことしか頭になくなって周りが見えなくなるし、誰がなんと言おうとどんなことよりもそいつが1番で、これまでの優先順位がなんだったんだと言いたくなるくらいにいとも簡単に入れ替わるわけ。
恋は盲目とはよく言ったものだ。
でも僕はある時ふと気付いた。
レイには元々なんにもなかったんだと。
家族も友達も。
これまで優先してきた"なにか"ってのはこいつにはなかった。
"盲目" になるような状況すら持ち合わせてなかったんだ。