第5章 possession
レイが戸惑ったように苦笑いをしていると、全てを察したかのように七海が横目で灰原を見やり、咳払いと共に低い声を出した。
「……灰原…」
「え?」
「君という人は…」
「え、なに?」
純粋無垢な仔犬のような顔をして仏頂面の七海を覗き込む灰原。
「まぁ…私のこの目を見て察せられるほど君が大人ではないことは知っていますが…」
「だからなにさ!」
七海は気がついていた。
レイが夏油のことを先程、傑と呼んでいたことにも。
「…まぁいいです。あとで話しましょう。
レイさん、お土産をありがとうございました。夏油さんにもよろしくお伝えください。では失礼します」
いつもの冷淡で抑揚の無い声色で言いながら、七海は灰原の腕を掴んで踵を返した。
灰原は引きづられるようにしてぐんぐん引っ張られていく。
「ちょ、ちょっと七海!夏油さんのところへっ」
「…なるほどやはり君は空気を読むということから学ぶべきですね。私のストレスが増えました。」
「はあぁ?!うぉいーっ!」
レイはポカンとした表情のままそれを見つめたあと、深く溜息を吐き首筋を擦る。
「やっぱこれ消しとくべきだった…かな…」
「レイさーん!明日会えたらまたーっ!」
引きづられながらも大きく手を振る灰原に苦笑いで手を振り返した。