第37章 nightmare
あれ…
私は……
長い長い夢を見ていた気がした。
いや違う…
あれは、現実にあった遠い過去の記憶。
幼稚園の頃、教室で初めて変なものを見た。
大きい1つ目で手がいっぱいあって、すごく気持ちの悪い形をした黒いものがくっついている子がいた。
恐ろしくて体が震えて、私はどうしてもその子に近付けなかった。
話しかけられても目を合わせられずに後退りした。
「?…どうしたの?」
「・・・」
「ねぇ、これ…」
その子は折り紙で作ったハートを持っていた。
「あげる」
顔を上げてその子を見ることはできず、震える手をなんとか伸ばした。
そのハートに触れる瞬間に、ヒュッとその子の頭の方から降りてきた無数の黒い手に掴まれそうになり、きゃぁ!!と悲鳴を上げて、その子の手をハートごと思い切り振り払ってしまった。
その子は当然驚いて大声で泣き始め、私は荒い息を吐きながら呆然となる。
何人かの子供と先生が駆けつけてきて、
手を抑えて泣いているその子と、落ちている折り紙のハートを見て、言うまでもなく私が悪者になった。
「私は悪くないもん!」
何度もそう繰り返す。
説明ができるほど賢くないし、そもそも説明なんてできるような状況でもなかった。
その子は数日後、交通事故で亡くなった。
小学3年生頃になると、もう私は変人で有名だった。
「あいつと話すと死ぬらしーぜ」
「俺はあいつと目が合ったら不幸が起きるって聞いた!」
「バカちげーよ!あいつの機嫌損ねた奴は呪い殺されるんだよ!だから気をつけろ!」
「げっ、まぢかよっ…敬語使わなきゃじゃん!」
私に対しては、誰もが腫れ物を扱うような態度だった。
皆、私を前にすると全身に緊張感を滾らせていて、敬語な上に、やけに腰が低くて明らかにわざとらしい気の遣い方。
関わらないのが1番と、皆が私を避けていた。
楽でいいやなんて思えなかった。
周りがキャッキャと笑って楽しそうにしている姿がとても羨ましかった。