第37章 nightmare
「…え……」
伏黒が声を出すのと同時に、五条はレイに唇を重ねていた。
目の前のその光景に目を丸くし固まってしまった。
五条が角度を変えてまた口付けをした瞬間、あんなに強く握っていた手が弱まったのが分かった。
まるで、大切な人とのキスに、心から安堵したかのように。
しかも…
「ん…ぅ……すぐ…る…っ」
キスの合間に漏れてきた声。
伏黒は更に目を見開いてしまった。
五条はそれをとくに気にする素振りもなく、何度も啄むようなキスを落としている。
その度に、閉じっぱなしのレイの目からは涙が零れ落ちていく。
「っ…ん…は……す…き……すぐっ……」
「…ん……レイ…」
舌の動きは全く見られない。
しかし、深くないようでいて深くも見えるそのキスは、充分に官能的な光景で、伏黒は目を逸らしたくても逸らせないでいた。
パッと唇を離した五条が、唖然としている伏黒を何事も無かったかのように見据える。
「あれ…もう大丈夫っしょ、
いつまで握ってんの恵。」
伏黒は気がついたようにゆっくりと手を離していく。
離れていく手がどことなく寂しく感じた。
「よし、と。
また世話をかけたね、恵。ありがと。
このことは…内緒ね。」
五条はレイを横向きに抱きかかえた。
「あの、先生…
あまりレイさんを1人にさせないでくださいよ。」
伏黒が鋭く睨んでくる。
五条は寂しげに笑みを浮かべた。
「…うん、分かってるよ、
恵ももう寮に戻りな。じゃね!おやすみっ!」
たちまちレイごとその場から消えてしまった。
伏黒は先程まで握られていた手の甲のプーさんを眺め、眉を顰める。
さっきまでのレイの表情も言葉も、なにもかもが何度も脳裏に反芻され、頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。