第37章 nightmare
「…ぅ…っ…やっぱりお酒って苦手かも…
あんまり美味しくは無いなぁ…」
ワインを一口飲んで苦い顔をするレイに、伏黒は呆れたように言った。
「ならやめといたらどうですー?
ワインは悪酔いしやすいって聞きますし」
「んんー…でもこれを飲めなきゃ私、いつまでも過去の自分と同じままで、ダメな気がする…飲み干さないとっ」
「えぇ……」
何に対する反抗心なんだか…
彼女の考えていることがさっぱり分からず伏黒はため息を吐く。
ふいに、前に彼女の言っていた言葉がリフレインした。
"私はね、実はね…別に呪術師になりたいと思ったこととか1度もなかったんだ。ただ…ある人に…導かれただけで…その人とただ…ずっと一緒にいたかっただけで……"
その人は一体どんな人だったんだろう?
きっと五条先生も知っている人だよな?
ずっと長いことその人を忘れられない彼女は、その人の存在に苦しめられているという受け取り方もできる。
どうにか忘れさせてあげることができればいいのに…
レイはさっきから、料理と一緒に懸命にワインを飲んでいる。
その表情は、とても苦しそうで悲しそうで、たまに何かを思い出しているのか、自嘲的な笑みを切なげに浮かべていたりする。
あの屈託のない満面の笑みからは想像もつかないような苦痛に満ちたその顔は、伏黒の心をも痛くした。
なぜ他人に対してこんな気持ちになるのだろうか。
きっと、彼女のあの笑顔を1度でも見た者は、誰でもこんな気持ちになってしまうのではないか…?
彼女を悲しませたくない、涙を流させたくない、笑顔が似合うこの人には、いつも笑っていてほしいと。
「……不思議な人ですね…」
「ん?あ…伏黒くんってばまた…」
「え?」
レイはまた笑顔になった。
「Always remember to be happy because you never know who’s falling in love with your smile.」
「……またプーさんのセリフですか?」
「ううん。白雪姫のセリフ。いつでも明るく楽しくするってことを忘れずに。だって、誰があなたの笑顔に恋してるかなんて分からないでしょ?って意味。」
伏黒は目を見開いたまま何も言えなくなった。