第37章 nightmare
ひとまず見つけた普通のファミレスに入った。
食欲はまるでないけれど、とりあえずテキトーなものを頼んだ。
「あ…そういえば、全回復したみたいで良かったね。」
「はい。お陰様で。」
「でもやっぱプーさんは取れちゃったかぁ〜
また付け直してもいいー?」
伏黒は少し表情を崩してフッと笑った。
「はい。」
レイは、じゃあ…と言ってプーさんの絆創膏を取りだし、伏黒の手をおもむろに取ると、ぺたりと貼り付けた。
一瞬のその行動に驚く。
「えっ…本気だったんですか?」
どうやら伏黒は冗談のつもりでハイと言ったらしかった。
「当たり前じゃんー。だって似合ってるもん」
くすくす笑うレイこそ、本気なのか冗談なのかわからず伏黒は赤い顔を隠すように視線を逸らした。
レイの笑みが消え、突然真顔になった。
窓の外を見ながら、抑揚のない口調で喋り出す。
「ね…伏黒くんはさ、いつまでも何かを引きずっている女の子って、どう思う。」
「………?!」
「いつまでも過去にしがみついて、今が見られない人って、どう思う。」
伏黒は目を細めてレイの横顔をじっと見つめる。
あぁ、そうか。
この人は未だ、完全に"今"に戻れていない。
過去を生きてて現在を生きてない。
「かわいそうな人だなって、思いますよ」
「ふ…そうだよね…」
レイはとても悲しそうな笑みを浮かべた。
「誰にだって、忘れられない過去の一つや二つ、辛い過去の一つや二つはありますよね。でも…俺は俺自身に、いつも言い聞かせてることがある…」
そう、俺にだって、苦い過去の記憶はごまんとある。
それどころか、子供の頃からそれしかないような気さえ…
「……過去の経験抜きでものを考えろと。
過去にこだわるやつは未来を失うんだと。
だから…俺は毎日…新しい自分として生きてる…」
過去に正しかったことが、未来でも正しいなんて限らない。
過去において成功したようなことや能力が、必ずしも今日成功するとは限らない。
だから俺は、今この時だけを考え、不平等に人を助ける。