第37章 nightmare
「ごめっ…なさ…わたしっ……」
「いいですよ、無理に喋らなくて。
それより、もう暗いですし、移動したほうがいいんじゃないですか?1人になりたいのなら。」
彼特有の無機質で抑揚のない声色。
そう言って空を見上げる彼に釣られて上を見ると、いつの間にか綺麗な星が所々に輝いていて、三日月が輝いていた。
「……三日月……」
無意識にそう呟いてしまった。
"私は満月よりも三日月の方が好きなのさ。
ちょうど、このくらいのがね"
"不完全という感じがしていいだろう?
この世のものは全て不完全なのさ"
「え、あぁ…そうですね。
三日月ですね……」
気がついたようにそう呟いた伏黒の艶のある黒髪は、闇に紛れて輝き、また思い出してしまいそうな記憶を消すように、レイは彼の持つハンカチを奪った。
「ごめんね、洗って返すから。」
「っ、いいです別に。」
「そうさせて。」
レイは消え入りそうな声でそう言いバッグにしまった。
「……五条先生やクマとは一緒じゃないんですか?」
「…あぁ……普段からそんなに一緒にいるわけではないよ?とくに悟なんかはいろいろ忙しいし、顔を合わせるのって朝だけのことが殆どで…。
クマは今…多分硝子と呑みに出かけてるかな。」
伏黒は真顔で黙ったままため息を吐いた。
「それより伏黒くんこそ何してるの?」
「…コンビニ行こうと思って高専出てきて、
ここ通りかかったら……」
あぁ、私のすすり泣く声でも聞こえたのかな…
それとも呟きが聞こえていたかな…
通り道だもんね、ここ…
レイはゆらりと立ち上がり、笑顔を作った。
「夕飯でも食べに行く?」
「え」
「ほら、元気になったら伏黒くんもどっか行こうって私言ったじゃん」
「…あぁ」
戸惑ったようにキョロキョロしだす伏黒の背中を押しながら歩を進めた。