第36章 inequality 【特別編】
その時俺は、相当凄まじい気迫で睨んでいたんだと思う。
五条先生はそんな俺の心理に気付いて、将来呪術師になることを担保に高専へ金銭的援助を取り付けてくれた。
"オーケー。あとは任せなさい。
でも恵くんには多少無理してもらうよ。
頑張ってね。"
そして最後に静かにこう言い残して去っていった。
"強くなってよ。
僕に置いていかれないくらい…"
遠ざかっていく背中が、
異常に刹那げに感じたのを覚えている。
今ならわかる気がする。
なぜ、そう感じたのか。
レイさん、あなたがその頃、
死んだからですよね。
「…伏黒くん?大丈夫?」
ずっと黙ったままの伏黒に声をかける。
伏黒はハッと顔を上げた。
「あぁ…とにかく…五条先生が僕を勧誘に来たんですよ。」
「そうなんだ……」
レイは疑問符を浮かべ、考え込むように視線を上に泳がせた。
「それより、いいんですかこんな所にいて。
何か用事があって高専来たんじゃないんですか?」
その言葉に、思い出したようにバッと立ち上がる。
「そーだった!今日ね、棘くんとお茶する予定なんだ〜」
「え?狗巻先輩と?」
「うん!あ、元気になったら、伏黒くんも行こっ?」
満面の笑みのレイに、伏黒は少し顔を緩ませる。
「…はい。」
「伏黒くん。The things that make me different are the things that make me.」
「え?」
「プーさんの言葉だよ。自分を変えてくれるものが、自分を作るものだ。って意味。じゃあね!」
ニッコリ笑って伏黒の手を握ってブンブン降った後、バタバタと部屋を出て行った。
伏黒はその手の甲に貼り付けられたプーさんに視線を落とす。
「ふ……全部無自覚でやってんのかな…」
こういうのも、ボディータッチ多いのも、
その笑顔も、行動言動も……全部。
まぁきっと無自覚なんだろうな。
あんなに純粋無垢なんだから…
そう思いながら伏黒はプーさんに指を滑らせた。