第1章 ruby
突然夏油の手が頬に触れ、一気に現実に引き戻される。
俯いていた顔を恐る恐るそちらへ流すと、ゾッとするほど美しい…まさにあの時のその顔があり息を飲む。
「…な、なに?」
夏油はフッと笑ってからレイの耳に手を滑らせた。
そしてみるみる眉を下げはじめる。
「痛そう…もう耳ではないな、これは…」
そりゃそうだろう。
ジャリジャリとしかしない感触。
レイの耳は全てピアスで埋め尽くされていて、もはやもう耳ではないかのよう。
まるで宝石の塊…いや、武器の塊みたいな…
「はは…こんなの痛くも痒くもないよ。あの頃の痛みに比べれば…」
その痛みとは、あの頃の心の痛みのことを言っている。
それは夏油にも分かり、口を噤んだ。
「…だから夏油くんは、命の恩人なんだよ。
私を救ってくれた。私は存在してもいいんだと、そう思わせてくれた。居場所を与えてくれて、感情をくれた。」
そうでしょう?
というように真っ直ぐに見つめると、夏油はレイの耳を触ったまま時が止まったように固まった。
「…?」
「だから…私が優しい、って?」
彼の一人称は、誰に対しても"私"
真顔のままポツリと言ったその言葉はとても小さくて、思わず笑って聞き返しそうになった。
「そうだよ。だからこの綺麗な星空の下に連れてきてくれるだけじゃないって、さっき言ったじゃん」
「・・・」
なぜかまだ固まって黙ったままの夏油に、さすがに目を合わせていられなくなってレイは上を向いた。
いつまで耳を掴んでいるつもりだろうなんて思いながら…
「あー…夜空ってこんなに綺麗だったんだね。これも夏油くんいなかったら、一生気付けなかったことだろうなぁ。」