第34章 surround ■ 【番外編】
一般に、カップルは「サポートする側」と「サポートされる側」で成り立っていて、これらの役割は状況によって切り替わる。
だがこいつらの場合はそれが非常に偏っていた。
互いを想いあっているのは確かだったし、傑が異常な支配的束縛的な男ではなかったし、むしろ深い仲を避けやすい回避的な奴であったため、共依存とまではいかなかったが、レイに関して言えばほぼそれと紙一重に近かった。
もともと、女は共依存、男は回避依存に陥りやすい傾向があるものだ。
レイは傑に必要とされないと、自分に自信を持つことができないどころか、生きている意味すらも簡単に無くなるような奴。
むしろ、なにをどうしたらいいのか、呼吸の仕方すら忘れかねないような奴。
そんなレイを世話すること、支えることが自分の存在価値のようになっていたのが傑だ。
自立を促し、成長を見守る一方で
いつまでも自立せずに自分だけを頼ってくれる、か弱い存在でいてほしいという奇妙な矛盾が生まれていることに傑は気がついていた。
しかし問題は、何にも気がついていないレイのほうだった。
もちろんどちらも相手を失うことを極度に恐れていたことには変わりないが、傑と違ってレイは圧倒的に想像力がなかった。
もしも傑に何かあったら自分はどうするのか。
もしも傑を失った時は?
もしも自分の元から去っていったら?
あるいはほかの女の元にでも行ってしまったら?
この世に"絶対"などはない。
どんな未来に転んでも、なるべく健康な自我を保つ方法は、常に何通りもの行き着く道の先を想像しておくことだ。
でも人間にとって、それがとても難しいことは知っている。
ほとんどの人間は、最悪の場合を想定したくはないし、そもそもその未来を信じない。
心の奥底で信じているそれを必死に抑え込み否定するために現実から目を背けている。
その上、なんでも常に自分の都合のいいように解釈する厄介な生き物。
だから思わぬ自体が起きた時、パニックになるどころか、廃人になったり自死したりする。
アホらしいと思わないか?
そんなこと、簡単に避けられたはずなんだ。本当は。
だがおいらはレイにはとことん甘かったみたいだ。
あえて残酷な道を想像させる。というようなことができなかった。