第34章 surround ■ 【番外編】
レイは、建物を背に身を隠してそっと覗いて見た。
夏油は壁に寄りかかって腕を組み、女性は向かい側に立ってまだ何かやりとりをしているようだ。
何を話しているのか内容までは聞こえないし、夕方ということもあって、表情すらもあまり見えない。
なにしてるんだろう?
あの人は誰だろう?
多分同い年くらいの人だ。
どこかの高校の制服姿。
胸元のリボンに、スカートが短いブレザー。
可愛い制服…いいなぁ…
そう素直に思った。
でも、当然あまり良い気はしない。
あー…私って何やってるんだろう…
これじゃまるでストーカーだ。不審者だ。
その自覚はあっても、気になりすぎて目が離せない。
あぁ…どうしよう…
私はこのままずぅっと見てるの?
や、だ…
そんなの。
レイはついに震える手でスマホを取りだし、夏油に電話をするという行為に及んでしまった。
「………」
確実にバイブ音などで電話には気がついているはずなのに、ポケットに触れるどころか、見向きもせずに、ひたすらに女性のほうだけを見つめている。
レイは胸が締め付けられるように痛くなり、電話を切って唇を噛み締めた。
そのとき……
「っっ!!……ぇ…っ」
夏油が女性の頭を撫でたかと思えば、女性が勢いよく夏油に飛び込んだ。
しかも夏油はそのままそれを受け入れるかのように、背中に腕を回してさすりだした。
そ…んな……
気が付くと、レイはその場から走り去っていた。
やだ、やだ、うそ…
こんなの嘘!夢!覚めて!
心の中で叫びながらひたすら高専に向かって走る。
凄まじい勢いで自室に入り、バタンと扉を閉めて寄りかかる。
肩で息をしながらぎゅっと目を瞑った。
言葉では言い表せないほどの感情が湧いてきて、心臓は弾け飛びそうなくらいにバクバクしている。
「……すっ…る」
なんで……
レイはベッドに飛び込み、そこに置いてあるクマを抱き締めた。
「くっ…う…っぅう……っ…」
いつぶりに涙を流しただろうか。
「くまぁ……う……私…どしたら…い、のっ…
捨てられっ…るの?」
レイは嗚咽を漏らしながらテディベアを涙で染めた。
その後、夏油から折り返し電話が来たが、それには出ずにラインで疲れているからもう寝ると伝え会わないようにした。