第33章 perplexity
伊地知は深く深呼吸してから車を走らせた。
感極まってしまってさっきから涙を懸命に堪えている。
「こ…こんなことって…
あるんですね…
まさか、レイさんとクマ先輩に…また…
お会いできるなんて……」
その驚愕ぶりは至極当然なので頷く他ない。
「…伊地知くんは、変わってないね?
見た目も中身も!」
ニッコリと笑ってレイが言うと、五条もクマも噴き出した。
「え、ここ笑うとこ?」
なにか失礼なこと言ったかな?
あの頃から見た目かなり大人びていたし…
ポカン顔のレイを無視してクマが言った。
「にしても…伊地知はあんときの助言通り、今では足をやってこき使われてるってわけか…」
「こらクマ!それを言うなら補助監督でしょ?」
「おんなじことじゃねぇか。
これから先はおいらがこき使ってやる。あんときの言葉通りな。」
「は…はい…なんなりと!」
尊敬していた森さんが死に、佐々木さんも百鬼夜行の際に子供を庇って死んでしまってから、
ずっとその背を追いかけるように
そして片時もこの2人を忘れずに、
自分にできる精一杯のことに励んできた。
あの頃の森さんと同じように、クマの足…いや補助監督ができるのならばこんなに光栄なことはない。
こんな日が来るとは夢にも思わなかった。
伊地知は大きく頷いてハンドルを強く握りしめた。
こうして伊地知潔高はあの頃の森と同じように完全にクマ直属の部下のようになってしまうのであった…