第32章 indifference
時が止まったように固まるレイに、五条は笑って言った。
「とりあえずさぁ、その制服着替えない?
またおまわりさんに怪しまれちゃうよ」
「……うん…」
「あとついでに必要なもの買ってこ。
パジャマと歯ブラシと〜…」
「ねぇ、悟…」
「うん?」
「私はこれから…どうしたらいい?」
レイは目隠しを差し出しながら目を合わせずに言った。
五条はそれを受け取ると、目に巻き付けた。
「…… レイはどうしたい?」
「わからないの……」
夏油傑がどこにもいなくなった今、レイは何がしたいのか、どう生きていけばいいのか、本気でわからなかった。
ずっと彼だけを指針に生きてきたのだということを、嫌という程思い知らされている気がした。
「…傑だったら、私にどうしろっていうかな…
結局私は…いつも傑のことばかりで、傑が人生の中心で…傑のことしか頭になくて……
結局…自分を持ってなかったって、今日分かった。」
傑、傑、ってうざい奴だよね私…
自分に呆れて、
自嘲気味に笑うことしかできない。
「焦らなくても別にいいよ。
無理に呪術師やれとか言わないし、言えない。」
でも・・・
「昔の正論ボーイの傑だったら、
迷わず呪術師やれって言うだろうね。」
レイは頷いた。
きっとそうだよね…
それに…私は傑に生かされたんだから…
「でも僕からも、これだけは言わせて」
五条はとても真剣な口調で真っ直ぐ見つめて言った。
「幸せになることを諦めんな。」
レイの中でそれは何度もリフレインされた。
かつて、どこかで誰かに同じことを言われたような気もした。
「うん……私の命は…また次の誰かに繋げるようにするよ。
生き抜くよ…最期まで……。」
五条は薄ら笑ってレイの手を取り立ち上がる。
「じゃ、行こう。
レイがレイでいられる場所へ」
ハッと目を見開く。
その言葉とその姿は、
紛れもなくかつての彼を思い起こさせた。
そして背景も、あのときと同じ星空に、綺麗な月が輝いていた。